BSJ書店員インタビュー
私のまちの素敵な本屋さん

「本に助けられて育ってきたから、地域の普通の本屋でありたい」 パン屋の本屋店長 近藤裕子さん

書店員になるきっかけは人それぞれ。書店で働くことで、読書の楽しさを共有できることや、その地域の人たちに触れることができるなど、醍醐味がたくさんあります。このインタビューでは、そんな書店員の魅力に迫ります。(これまでのインタビューはこちら

聞き手:BSJ代表理事 安藤哲也(2023年4月末取材)

ベーカリーカフェと本屋が併設した「ひぐらしガーデン」

TVやマンガも見ず、ひたすら本が好きな子だった

―本屋でのバイト経験は?

学生時代に4年間、「井上書店」という町の本屋でバイトをしていました。それが今の仕事のきっかけになったかなと思います。
新卒で編集プロダクション的な出版社に就職。雑誌編集の仕事をしていました。健康に関する記事を書いたり、人をインタビューしていました。三波春夫さんをインタビューしたこともあります。

―子どもの頃から本は好きだった?

実家が東京都昭島市だったんですが、自然がいっぱいで。外でもたくさん遊びましたが、本も好きな子でした。TVやマンガ本は見ませんでした。

―どんな本を読んでいたんですか?

世界文学全集みたいな本が好きでしたね。
親が時々、立川の本屋さんに連れて行ってくれて、1時間くらい自由に本を見せてくれたんです。好きな本を1~2冊持っていくと、タイトルも見ずに買ってくれました。

―「この本はダメ」とか親に言われたことはなかったと?

はい、恵まれた環境だったと思います。

―今は親の可処分所得が少ないから、「何の本でも買ってあげる」とか言えないんですよね。

でもゲームはやらせていますよね。私はゲームをやりたいとは思いませんでした。

―十代で影響を受けた本はありますか?

友だちは、「りぼん」や「なかよし」を読んでいて、借りて読んだこともありましたが、ワクワクしないんですよ。絵より文章に魅力を感じる子どもでした。

ひとつの場所にいる方がしっくりするから本屋に

―編集プロダクションの仕事から、なぜ書店で働くようになったのですか?

編集は自分が出向いてする仕事ですが、ひとつの場所にいる方がしっくりくる感じがしたので。その後、アルバイトをしていた地元の「井上書店」で勤め始めました。

―店長はどんな反応でしたか?

本屋の売り上げがまだ良かった時期で、本に詳しい、接客ができる人材として雇ってくれました。その後店長的な役割もさせていただきました。
ネット21(中小書店が戦略的に組織化するための共同出資会社)に加盟していて、店長会議にも出ていました。

―井上書店を辞めたのはなぜですか?

井上書店は本店で仕事をしていたのですが、併設していたコミック専門店を本店に一本化することになりました。そのような内容だと「私がいても役に立たないな」と思ったんです。それが8年前でした。

―その後は?

図書館に1年間勤務しました。
図書館は普段から利用していましたが、いざ中に入って仕事をしてみると、ベルトコンベアー的にこなしていく印象。単調な仕事は、自分には難しいと感じました。

「地域の人に“普通”に使ってもらえる本屋」がコンセプト

―そして今の「パン屋の本屋」で働くことになったんですね。

2代目店長を探しているとのことだったので。
前任の店長はサブカルチャー的な要素が強い書店を作っていたので、地域の人に普通に使ってもらえる書店にしたいと思いました。私は裏方的な役割が合っているので。

―地域の普通の本屋さん、いいですよね!

お店がおしゃれな感じなので、セレクトショップ?とも言われることがありますが。私は、地域の人が来てくれる普通の本屋でありたいと思っています。

―本屋で働くことが好きなんですね?

書店以外できないんですよ(笑)。お金はあったに越したことはないですが、私自身も、美味しい料理をつくって、本を買うことができる、普通の生活ができたらと思っています。

―本屋はどんなところが面白いですか?

アパレルショップなら、お客様は女性中心、と限られますよね。地域の人、年配の人から、赤ちゃん、男性にも女性にも関われる仕事って、なかなかないと思っています。

―そんな多様な人向けに、本屋の棚を作れるのは楽しいですか?

毎日、小さな事件が起こるんですよ。聞かれた本の名前で探していると、書名が違っていることもあったり……。

―本屋をやっていて、難しいところはありますか?

本だけで利益を上げることが難しいということですね。目標があるから頑張るけど、なかなか難しいです。新しいやり方をしていかないといけないと思っています。

―今は店はワンオペでやっているんですか?

新しいことをやるためにはマインド的にも余裕がないと難しいですが、スキルや知識をインプットする余裕が、今のところないですね。

―SNS発信もしていますね。

ツイッター中心です。今の書店の姿や、新しい本について知ってもらうきっかけになればと思っています。

―こんなことをしたいというのはありますか?

他の書店に行きたいですね。営業関係者の方が来店され、出版業界の話をすると勉強になります。自分も時には出向いて行って、書店同士で交流ができたらいいですね。

―パン屋の本屋としてのベストセラーは?

「パンの本」、例えば『からすのパンやさん』(著:加古里子、‎偕成社)は売れています。
『マカン・マラン – 二十三時の夜食カフェ』(著:古内一絵、中央公論新社)という本では、著者によるトークイベントもやりました。大人向けの本で著者参加のイベントは初めてでしたが、結構反響があってよかったです。

―パンを題材にした本も多いですね。

『くまくまパン』(著:西村敏雄、あかね書房)では、2023年5月に絵本とパンのコラボイベントを開催します。

―店長の仕事はどうですか?

パン屋の本屋に来る前までは、本屋で働ければ有り難いという感じでしたが、全部1人でやるようになり、いろいろ思うところも出てきました。

―地方に移住して本屋をするとかは興味ありませんか?

誰かと共同で、週のうち半分は本屋、もう半分は読書三昧、あこがれますね!

つらい時、楽しい時、いつも本が傍にあった

―書店人としては子どもたちの読書環境の悪化を憂いています。町の本屋さんがなくなる、ネットで済ませてしまう、相変わらず学校の読書感想文で本嫌いになる子を増やしているとかね。かつての近藤さんのように「活字好きの少女」というのは、珍しくなってきている。だからこの店では小さい子が多いから町の本屋として、本好きの子を増やして欲しいですね。

読み聞かせの活動をしていると、「どうしたら本を読む子になりますか?」という親からの相談も多い。まずは親が読んでいる姿を見せるべきだと僕は思うけどどうですか?

町の本屋も「親が読んでいる姿を見せていきましょう」と言っていきたいですね。子どもたちには、自由に本を読んで欲しいと思っています。本でも、マンガでも、雑誌でも。
自分自身が本に助けられて育ってきたんですよ。つらい時、楽しい時、いつも本が傍にあった。何かあった時には、本が助けてくれると伝えていきたいです。

BSJ代表理事の安藤哲也も、親子への読み聞かせを行った

―具体的に助けられた本とは?

あきない世傳 金と銀』(著:髙田郁、角川春樹事務所)でしょうか。大坂へ奉公に出た主人公の半生が描かれていて、商売の話もあります。いろいろな困難があって、商売が傾いたり。これを読むと本屋の仕事ともリンクするんです。七転び八起きというか、何度読んでも感銘を受ける作品です。

―おはなし会もやっていますね。

自分が読んでいると楽しくなっちゃうんですよ。イベント準備は大変ですが、楽しんだ者勝ちです。子どもたちにも楽しさが伝わったらと思います。

(筆:FJ理事 高祖常子)

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