BSJ書店員インタビュー
私のまちの素敵な本屋さん

「子どもに絵本を届ける大人を増やして、子どもと絵本をつなぎたい」 絵本の小部屋こごみ 小谷田 照代さん

書店員になるきっかけは人それぞれ。書店で働くことで、読書の楽しさを共有できることや、その地域の人たちに触れることができるなど、醍醐味がたくさんあります。このインタビューでは、そんな書店員の魅力に迫ります。(これまでのインタビューはこちら

聞き手:BSJ代表理事 安藤哲也(2023年7月取材)

教員から絵本の古本屋の店主に

―プロフィールをお願いします

「絵本の小部屋こごみ」をスタートさせてからまだ1カ月しか経っていないんです(笑)。
出身は兵庫県出石町(現 豊岡市)。大学卒業後、神戸市で小学校教員としてスタート。その後結婚して静岡県沼津市で定年まで働きました。退職して3年経って、この絵本屋さんをオープンしました。

―絵本の専門書店ということですね?

在庫はまだ1800冊程度ですから、専門書店と言えるのかどうかという感じですが。

―なぜ絵本の本屋さんをやろうと思ったのですか?

小学生の頃からずっと本を読んでいる子どもでした。でも、大学で、私が出会っていない本がたくさんあることを知ったんです。私が通った小学校に届いていない本があった。届ける大人がいなかったということです。で、子どもと児童書を繋ぐ仕事に就こうと思ったのですが、司書の資格も取得できず、公共図書館は諦めて、毎日子どもとかかわれる教員になりました。学級担任時代は、ほぼ毎日子どもたちに絵本の読み聞かせをしていました。私自身の3人の子どもには、生後2か月から、ほぼ毎日読んでいました。絵本に助けられたこともたくさんあります。そんな経験から、退職したら子どもと絵本をつなぐことをしたいと思いました。

読んでいる大人も絵本で心が落ち着く

―絵本に助けられた?

学級で読み聞かせを毎日して2~3カ月もすると、子どもが自分たちでも本を読むようになるんです。そうすると子どもはもちろん、親が喜ぶんですね(笑)。学級も落ち着きます。
育休明けが2学期からとなり、1学期と担任が変わって子どもたちが落ち着かないクラスを担当したことがありましたが、毎日読み聞かせを続けたら落ち着きました。わが家でも仕事と子育てで、日々忙しかったのですが、わが子への読み聞かせだけは、何があっても続けていました。フルタイムで働いていると、わが子と触れ合う時間は本当に少ないですが、絵本を読む30分のおかげで、わが子との生活も落ち着いて過ごせたと思います。

―おうちではどんな風に絵本を読んでいましたか?

長男の生後2カ月から、ご飯の後に読んでいました。本好きで賢い子になって欲しいという意図はないです(笑)。絵本を読むと親も落ち着くんですよね。読み聞かせは親である自分のためにもなっていました。

―学校でも読み聞かせが広がっていますね

学校で「読み聞かせ」という言葉が浸透して、保護者が読み聞かせボランティアとして学校に来てくれるようになったのは2000年の「子ども読書年」・・今から20年前くらいからでしょうか。学校現場の中でも読み聞かせは徐々に増えてきていて、朝の読書の時間に取り入れている学級もあります。

私の1部屋があるから、そこに本を置こう

―安曇野で本屋を開くきっかけになったのはなんですか?

子ども3人は大学生となって家を離れ、夫婦二人になりました。
夫婦共に山登りが好きなんです。安曇野は、北アルプスに行く際に通るところだったので。安曇野に出会い、ここに住みたいと思いました。
夫は植物や庭づくりも大好きで、私より一足先に安曇野に移住してオープンガーデン目指して庭を作っていたんですが、「私も自分ができることをしたいな」と考え、「私の1部屋があるから、そこに本を置こう」と思ったのがきっかけです。

―なるほど

でも数年前から周辺にサルが出るようになって、その対策の為にオープンガーデンの開始は先送りになったので、本屋の方が先になりました(笑)。
みんなには「夢がかなってよかったね」と言われますが、書店を絶対に開きたいとまでは思っていなかったんです。

―絵本を売ろうと思ったのはどんな理由からですか?

わが子への読み聞かせ経験から、家の中に借りた本だけではなく、手持ちの本があると、毎日読み聞かせする環境が整い、その中から子ども自身が選べるのでいいなと思っていました。子どもが気に入った本は、3カ月続けて「読んで」と持って来たりするので。それで、今の子どもが読みたい本&今の子どもに読んで欲しい本を集めて売ろうと思いました。

―客層は、祖父母が孫のために買うというのも多いですか?

そうですね。客層は、子連れの家族から絵本が好きな大人、孫のいる世代まで幅広いです。孫へ絵本をプレゼントしたいけれど、どんな本を選べばいいか悩んでいる方には、お孫さんの年齢や絵本の好み、予算等を聞いて選書することもしています。お子さんによって、乗り物とか、恐竜とか、昔話とか興味・関心はいろいろですから。

―1カ月やってみて、どうでしたか?

看板の設置やショップカード配布などが後手後手になってしまいましたが、それでも徐々にお客さんが増えてきてありがたく思っています。また、やっとすべての本への値付けを終えて本棚に収めることができました。

子どもが絵本を読んだり遊んだりする居場所に

―子どもの掘りごたつがいい感じですよね。都会から見ると贅沢な空間ですね

子どもも大人もゆったりできるスペースとして作りました。読み聞かせやおもちゃ遊びにも使ってもらえたらと思っています。さらに、部屋の中だけでなく、庭で遊んだり、ウッドデッキやベンチや囲炉裏小屋などでくつろいだりしてもらえればうれしいです。

―第二の牧野富太郎が生まれるかもしれませんね

植物好きが増えるのもいいなと思います。

―自分も植栽を植えているんだけれど、手をかけ過ぎてもだめなんですよね。子育てと似ているような気がしています。本屋はいつまで続ける予定ですか?

10年はやろうと思っています。退職して3年経ったので、後期高齢者になるまでは続けたいですね。

隣のクラスの先生が、本を借りに来ていいと言ってくれて

―本と小谷田さんの出会いには、そもそも何かあったのですか?

小学校1年のときに、国語の教科書に石井桃子さんの「ふしぎなたいこ」があったんですが、大好きで毎日10回くらい音読していました。その後、学校の図書室の本も読むようになったのですが、全校児童160名くらいの小さい学校で、図書室も教室程度の大きさで蔵書が少なく、本を全部読み終えてしまったんです。読む本がなくなり「明日からどうしよう」と思っていたら、隣のクラスの先生が「先生の家に借りに来てもいいよ」と言ってくれました。その先生の家には学校にはない児童文学の全集があって、こんなに面白い本があるのかと驚き、「宝島」などを読み漁りました。
その先生がいたから救われましたね。

―ひとりで読んでいたんですか?

そうですね。でも、ドッジボールって楽しいじゃないですか。一緒にやって楽しさを共有できるから。それと同じように、「宝島」を読んで、「この面白さを共有したい」と思いました。振り返れば、12歳の時には、読書体験を1人のものにせずシェアする場を作りたいと考えていたんだと。

―図書館でも働いているんですね

安曇野市の北にある松川村の図書館で働いています。月に20時間程度です。松川村の図書館は児童書が充実しているんですよ。以前は貸し出しは5冊・2週間まででしたが、コロナ禍をきっかけに、1人何冊でもOK、3週間までとなりました。山積みに借りて帰る人もいます。

―図書館と本屋の関係も見直されていますね

先日、ある講演で「よく使われている図書館でも住民の3割しか使っていない」と聞きました。普通は1割くらいとのことです。本当にもったいないと感じました。本と人をつなげるという意味では、図書館も本屋も大切な場所です。これからも、両方の立場から本との出会いを後押ししていけたらと思います。

(筆:FJ理事 高祖常子)

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