BSJでは、新しく開業された書店さんへのインタビューを通し、「書店の開業に活用できる支援施策」を紹介していきます。近年、起業を後押しする政府の方針もあり、創業者への支援施策が国・自治体とも充実してきています。条件に合うものがあれば、ぜひご活用いただければと思います。(これまでのインタビューはこちら)
第2弾は、2022年に福岡県にオープンした「CUWANO. BOOKS CAFE SPACE」の桑野さんと店長の石村さんにお聞きします。
―運営企業の桑野商会さんは、プロパンガスの販売会社だとお聞きしました。畑違いとも感じる書店を始められようと思われたのはどのような経緯だったのでしょうか。
桑野さん:当社は地域への貢献を理念に掲げています。コロナ禍の閉塞感で地域の賑わいが失われる中、何か新しいことに取り組みたいと考えていました。たまたま娘の受験で東京に同行した時に、パン屋さんと書店が併設された「ひぐらしガーデン」を目にして、自分の街にもこんな場所を作りたいと思ったのがきっかけです。
―CUWANO.さんはどんな本屋さんですか。
石村さん:商店街のアーケードに立地する、1Fにカフェ、2Fにコワーキングスペースを併設した書店です。「思い切り笑って休み休みいきましょう」をコンセプトに、老若男女皆様を癒せる場所になることを目指しています。「街の本屋さん」として、絵本、雑誌、旅行誌をはじめ文芸書、実用書、専門書、コミックなど様々なジャンルの本を広くカジュアルに取り扱っています。コワーキングスペースではイベント、読書会、展示会なども積極的に開催していく予定です。
―開業の準備はどのように進められたのでしょうか。
桑野さん:社内には経験者が全くいなかったので、古本屋で長く働かれていた石村さんに新たに入社してもらいました。石村さんに新刊書店のことも学んでもらうため、福岡のブックスキューブリックさんで研修を受けさせていただいたのですが、ノウハウのなかった当社にはその経験が本当に役に立ったと思っています。
資金面や経営面については朝倉商工会議所に相談しました。そちらで事業再構築補助金(※1)と中小企業診断士の先生の紹介を受け、採択を得て開業することができました。
―事業再構築補助金を採択されるまでの苦労や、これから挑戦される方へのアドバイスがあれば教えてください。
桑野さん:申請書は診断士の先生にお願いして一緒に作成を進めたのですが、何十時間もかけてヒアリングを重ね、こちらの想いや事業、会社のことを文章にしてくださいました。その先生には採択後も事業の相談に乗っていただいていて、大変助かっています。異業種への挑戦ではノウハウ獲得が重要なので、当補助金を申請する時には研修費用等も計上するとよいと思います。また、本の在庫や家賃などの運転資金は対象にならなかったので注意する必要があります。
―既存の事業との相乗効果などがあれば教えてください。
桑野さん:当社は本業で約千件のお客様を抱えており、ガス交換時にチラシを配らせていただいています。そこから来店や口コミに繋がることも多く、大きなシナジーを感じています。書店の営業は予想以上に好調で、ここがあってよかったという声をいただくことがやりがいになっています。一人では新しいことへの挑戦はできないので、たくさんの人に協力いただけたことが一番だと思っています。本の売上げだけでは経営は難しいですが、他の事業もうまく組み合わせて、地域に愛されるお店にしていきたいです。
(※1)―事業再構築補助金とは―
新市場への進出など、事業の再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援する補助金です。すでに何らかの事業を営んでおられる企業や個人が対象で、補助額が大きいことが特徴です(新規創業者は対象となりませんのでご注意ください)。国が認定した支援機関(認定経営革新等支援機関)と事業計画を作成することが申請の必須要件となっていますので、ご活用を検討される場合はお近くの商工会議所・商工会や金融機関などに相談してみてください。
文: 伊東 直人(中小企業診断士)
本職は経済官庁に勤務する、何より読書好きな国家公務員。